概要・沿革

1.知的財産高等裁判所設置法の目的

 知的財産高等裁判所は,平成17年4月1日に,知的財産高等裁判所設置法に基づいて設置されました。

 知的財産高等裁判所設置法は,我が国の経済社会において,知的財産の活用が進展するのに伴い,その保護に関して司法の果たすべき役割がより重要なものとなっているとの現状を踏まえて,知的財産に関する事件についての裁判の一層の充実及び迅速化を図るため,知的財産に関する事件を専門的に取り扱う裁判所を設置し,裁判所の専門的処理体制を一層充実させ,整備することを目的としたものです。

2.知的財産高等裁判所の各部の沿革

(1)東京高等裁判所の知的財産権部

 知的財産高等裁判所が設立される以前は,東京高等裁判所の中に,知的財産権関係事件を取り扱う専門部が設けられていました。

 昭和23年の特許法の改正により,東京高等裁判所を専属管轄とする審決取消訴訟制度が定められたことを契機として,まず,知的財産権関係事件を特定の部に集中させることとなり,昭和25年11月に,知的財産関係事件の集中部として,第5特別部が設立されました。昭和33年3月,第5特別部に代えて,東京高等裁判所の民事通常部の中に,知的財産権関係事件だけを取り扱う専門部が置かれるようになり,その後,この専門部は4か部に増えました。また,平成16年4月1日から施行された民事訴訟法等の一部を改正する法律により,特許権等に関する訴え(いわゆる技術型の訴え)について,5名の裁判官による大合議制が導入され,第6特別部が設立されました。

(2)知的財産高等裁判所設置法の制定

 我が国においては,経済の低迷が続く中で,知的財産を国家的な規模で創造,保護,活用して日本経済の再生を目指すことが必要であるとの認識が醸成されてきました。このような中,平成13年6月に公表された司法制度改革審議会意見書では,「知的財産権関係事件への総合的な対応強化」の具体的方策として,裁判所の専門的処理体制の強化を目的とするなどの様々な裁判手続への提言がされました。また,平成14年7月に決定された知的財産戦略大綱では,実質的な「特許裁判所」機能の創出などの東京地方裁判所や大阪地方裁判所の専門部を実質的に「特許裁判所」として機能させるため,両裁判所に専属管轄を創設することなどの様々な課題が提示されました。

 このような提言や課題を受けて,知的財産権関係訴訟の紛争処理機能の強化等の観点から,知的財産高等裁判所の創設が検討されるようになり,平成16年6月,知的財産高等裁判所設置法が制定されました。知的財産高等裁判所は,同法に基づいて,平成17年4月1日,東京高等裁判所の特別の支部として設置されました。これに伴い,従前東京高等裁判所に置かれていた知的財産権関係事件の専門部4か部と第6特別部は,知的財産高等裁判所の通常部4か部と特別部に移行しました。

3.その他の裁判所の知的財産部の状況

 昭和36年には,東京地方裁判所に知的財産権関係事件の集中部が開設され,昭和39年には,大阪地方裁判所にも知的財産権関係事件の集中部が開設されました。現在,東京地方裁判所には知的財産権関係事件の専門部が4か部,大阪地方裁判所には2か部設けられています。また,大阪高等裁判所には,知的財産権関係事件の集中部が1か部設けられています。

知的財産高等裁判所の沿革一覧
社会情勢裁判関係
1950 東京高裁に知的財産部開設
1961 東京地裁に知的財産部開設
1964 大阪地裁に知的財産部開設
1990 大阪高裁に知的財産部開設
 バブル崩壊 
 知的財産に注目が集まり始める 
1996.8 民事訴訟法等の一部を改正する法律 成立(特許権等に関する訴えの競合管轄化等)
1998.5自民党商工部会知的財産政策小委員会による提言 
1999.7司法制度改革審議会 設置 
2001.6司法制度改革審議会 意見 公表 
2001.12司法制度改革推進本部 設置
(~2004.11)
 
2002.2小泉総理 政策方針演説 
2002.3知的財産戦略会議 発足 
2002.7知的財産戦略大綱 決定 
2002.10知的財産訴訟検討会 開催 
2003.3知的財産基本法 施行 
 知的財産戦略本部 発足 
2003.7知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画 決定民事訴訟法等の一部を改正する法律 成立
(特許権等に関する訴えの専属管轄化、専門委員制度の導入等)
2004.6 知的財産高等裁判所設置法、裁判所法等の一部を改正する法律 成立
2005.4 知的財産高等裁判所 設立
2022.10 知的財産高等裁判所・東京地方裁判所中目黒庁舎(ビジネス・コート)へ移転