専門委員を学会から推薦するにあたっては,企業出身者は特許権の取得等で経験が豊富であるが,同じ業界の場合訴訟当事者と利害関係がある可能性もあり,推薦は難しいと考えている。大学の研究者は,中立的な立場でもあるので専門委員として適任と考えている。専門委員として勉強する機会をより多く設けていただければと考えている。
ただし,専門委員制度は新しい制度であるから,その仕事の内容が分かりにくく,推薦をする際には苦労をした。また,推薦依頼に際しては,特許権に準拠した分野の提示を受けたが,進歩の速いIT分野をはじめとして,かかる分類は実態と乖離しているような状況なので,具体的な事件への指定の際には,所属ソサエティを参考にしていただきたい。
学会・研究者からは,技術者・研究者は我が国経済発展の原動力でありながら,給料が他の職種と比較しても低廉であるなど,その社会的地位が保証されていないとの声が出ている。
高等学校では,物理を選択する学生が全体の10%を切るなどしており,理科離れは深刻である。大学としても,その入学年度は高等学校の授業内容の復習に充てざるを得ず,修士を含めて6年一貫での教育をするよう考えている。
今回,この講演をするにあたって,学会から推薦した専門委員に改善点等についてコメントを求めた。
- 裁判所の中に専門委員が使用できる部屋があるとよい。
- 1事件につき,専門委員を1人ではなく複数人指定するのが望ましい。その理由は,1つの特許が関連する技術分野は広汎であることがあり,1人では技術的に十分カバーできない場合があるようであるし,技術内容は分かっても特許的な判断に迷うこともあり得,その場合には相談相手が必要であること,1人でもれなく理解しようとすると逆に時間がかかることになること,また,複数の人が専門委員として指定され,その中に経験豊富な人とそうでない人が混じる方が制度の早期確立に有効であること(かつて,学会の論文査読は1人で行っており,基準にバラつきが生じていたが,複数になってから他の人の判定を見てフィードバックできるようになり,基準の平準化ができるようになった。)が挙げられる。
- 専門委員と裁判官が参加して裁判所で事例研究会が行われ,事例の紹介と意見交換を行ったが,専門委員同士はもちろんのこと,専門委員と裁判官の間でも見識が深まり,非常に有益であった。また,事例研究会では,専門委員制度が有効に働き,訴訟が取下げで終了する例なども紹介されていたが,専門委員の満足度向上,制度発展のためには,裁判所サイドから新制度で得られた効果について早期に専門委員に周知することが必要であるし,訴訟の結果がどうなったかや,事件への関与の点についてどう評価しているかなど,裁判所サイドの考えを専門委員にフィードバックして欲しい。
- 専門委員は,技術的事項はともかく,訴訟の進行に関しては詳しくない人もいるので,訴訟がどのように進むのかなど,特許法のキーポイントも含めて説明が必要である。